目の前の景色 場所:いわき駅 僕の視線 いわき駅のホームに立つ。朝の5時17分。まだ薄暗いが、東の空がじわりと滲むように朱色を帯び始めていた。夜の冷たさがわずかに残る空気に、コーヒーの香ばしい匂いが混じる。売店の自動ドアが開くたび、温かなパンの匂いが漂い、鼻の奥をくすぐった。 隣にいる彼女は、小さなカメラを片手にホームのベンチを撮っていた。誰も座っていない、古びた木のベンチ。雨風にさらされ、ペンキの剥げたその姿は、時間の積み重ねを物語っていた。 「どうしてこのベンチ?」と聞くと、彼女は少し考えてから言った ...