Hoppin

目の前の景色 場所：羽田空港 僕の視線 金属の翼が朝の光を弾いている。滑走路の先に広がる空は、まだ少し冬の気配を残しながらも、どこか柔らかくて、春の始まりを感じさせた。搭乗口へと向かう彼女の背中は、少しだけ浮ついて見えた。 きっと新しい仕事に向かう緊張と期待が入り混じっているんだろう。 僕は彼女の手を握ることも、呼び止めることもせず、ただ飛行機の影の下で見送った。「行ってこいよ」って心の中で呟いた。そして、シャッターを切った。この瞬間を忘れないために。 彼女の視線 朝の羽田空港。8時55分、少しだけ冷たい ...

目の前の景色 場所：Kitte丸の内 僕の視線 朝のKITTEは、こんなにも静かなんだな。彼女は少し前を歩いていて、いつもより声が小さい。照明の反射が天井に幾何学模様を描いて、まるで未来の中に迷い込んだみたいだ。 だけど、僕は今、この「普通の朝」が特別に思えてならない。彼女が立ち止まって振り返る。目が合って、微笑む。ああ、やっぱりこの人と出会えてよかった――何も起きない朝が、いちばん愛しい。 彼女の視線 ガラスの天井に、朝の光が静かに降り注いでいた。KITTEの中庭は、まだ誰の足音もつけられていない真っ白 ...

目の前の景色 場所：仙台駅前 僕の視線 待ち合わせはいつも、あの“SENDAI”の文字の前。3月の終わり、冷えた空気の中にも春の香りが少しだけ混じっていた。僕は彼女の姿を探しながら、通り過ぎる人の影を目で追う。 空は群青から墨色に変わりつつあり、ガラス越しにこぼれる灯りが少し心を落ち着かせた。そして、遠くから手を振る彼女。まるで日常の一部が、特別な一瞬になるような気がした。この写真には写ってないけど、僕にとっての風景は、あの時の彼女の笑顔だったんだ。 彼女の視線 「寒くない？」そう言ってくれたあなたの声を ...

目の前の景色 場所：高知 僕の視線 波の音が、心のざわめきを少しずつ消していく。となりに彼女がいる。ただそれだけで、海の青がやさしく見えた。 「春って、ちょっとさみしいね」そうつぶやいた彼女の横顔が、遠くの空と溶け合っていた。寒くないか？って聞いたら、首を振って笑った。 あとどれくらい、こんなふうに一緒に海を見ていられるんだろう。そんなことを考えるのは早すぎるのに、潮の匂いと彼女の髪がまざる午後の風の中で、僕は静かに、彼女の背中を見ていた。 彼女の視線 足元に打ち寄せる波が、コンクリートを濡らしては引いて ...

目の前の景色 場所：富士山上空 僕の視線 飛行機の窓から覗いた彼女の横顔は、光を浴びてどこか懐かしく、眩しかった。 「見て、あれ、富士山じゃない？」と、指差す声に振り返ると、雲海の中に凛と立つその姿。まるで絵葉書みたいな景色に、しばらく僕らは言葉を忘れて見入った。 12時24分。 小さな機内の座席で肩を寄せ合いながら、地上3000メートルの旅の記憶が、またひとつ重なった。ただ、今ここにいることが、不思議と未来への約束のように思えて仕方なかった。 彼女の視線 私は、空の旅が少しだけ苦手だった。耳が詰まる感覚 ...

目の前の景色 場所：原爆ドーム 僕の視線 風が冷たくなってきた午後、君はマフラーを巻き直しながら僕の横に立った。空はどこまでも澄んでいて、原爆ドームの傷跡が、まるで空に溶け込むみたいに柔らかく見えた。 「なんか、静かだね」と君がつぶやいたとき、遠くで小学生の笑い声が聞こえてきた。あの日のことを僕らは知らないけど、それでもこの場所に来た意味を、ふたりとも少しだけ感じ取っていたと思う。 手をつなぐでもなく、ただ並んで立つだけの時間が、やけに心に染みて、僕はふと、君の横顔を写真に残したくなった。記憶じゃ足りない ...