目の前の景色
場所:虎ノ門駅

僕の視線
「なんか、未来感あるな」
僕はスマホの画面に映る写真を見ながら、ぼそっと言った。
静まり返った地下道。
壁際に伸びる手すり、磨かれた床、無機質な照明。
天井には控えめな光が反射し、まるで近未来のSF映画のワンシーンみたいだ。
「夜の地下道って、ちょっと寂しいよな」
奥の改札口には数人の人影が見える。
遠くから微かに聞こえる電車の発車音とアナウンス。
すれ違う人の足音だけが、空間を満たしている。
僕はふと、彼女を見た。
いつものようにじっと写真を見つめて、なにか考え込んでいる。
「こういう場所、ちょっとワクワクしない?」
「なんで?」
「ほら、何かが起こりそうな感じしない?」
僕は冗談めかして言ったけど、彼女は真剣な顔で頷いた。
「うん。確かに、ここはすごく特別な場所かもしれない」
え?マジで?
彼女の目がきらりと光った。
「で、どんな特別なことが起こるん?」
「それはね……」
彼女は、にやりと笑った。
彼女の視線
「この写真、なんか不思議」
私はスマホの画面をじっと見つめた。
夜の地下道。まっすぐに伸びる空間。
淡々と光る天井のライト。
遠くに見える改札口。
どこにでもありそうな風景なのに、私はこの写真に妙な魅力を感じていた。
「寂しい感じするよな?」
彼の言葉に、私は少し首を傾げる。
たしかに、人が少ない。時間も遅い。
でも、この場所には、ただの「寂しさ」だけじゃなく、何か別のものが漂っている気がした。
「ここはね、時間が止まる場所なんだよ」
「え?」
彼が驚いた顔をするのを見て、私は少し得意げになった。
「見て。手すりの曲線、天井の反射、誰もいない広い空間。ここって、まるで時間がこの瞬間だけ止まったみたいでしょ?」
彼はスマホの写真をもう一度見て、「うーん」と唸った。
「……まぁ、言われてみれば?」
たぶん、彼にはまだこの感じが伝わっていない。
だけど、私は確信していた。
この地下道は、ただの通路じゃない。
ここには、人々が行き交う「記憶」が刻まれている。
昼間なら、急ぎ足のサラリーマンがすれ違う。
ランチ帰りのOLが笑い声を響かせる。
夕方には、待ち合わせに遅れそうな学生が走る。
でも、夜になると、それらの記憶だけが静かに残る。
今、ここを通る人はほとんどいない。
でも、この場所には、昼間に通った誰かの「気配」が残っている。
だから、私はこの場所を「時間が止まる場所」と思ったのだ。
「……って、話してたらさ」
彼がぽつりと言う。
「なんかトイレ行きたくなってきた」
私は一瞬固まり、それから思わず吹き出した。
「え、それ今言う?」
「いや、話聞いてたらなんか静かすぎて、逆に……」
彼は苦笑しながら頭をかいた。
私は笑いながら、「ほら、行っておいで」と手を振った。
地下道の静けさの中に、私たちの笑い声だけが響いた。
スマホが見た景色

彼女のスマホの視点
警告!
現在の時刻、21:38。
ユーザーが夜の地下道にいることを検知。
周囲の人の数、少ない。
緊急事態発生の可能性、0.7%。
——えっ、意外と低い? いやいや、油断しちゃいけない。
私は、彼女のスマホにインストールされたAI。
日々、彼女のスケジュールを管理し、気温を知らせ、些細なことで心配しすぎる性格が災いして、つい余計なお節介を焼いてしまう。
でも、今回ばかりは本当に心配だ!
どうしてこんな時間に、こんな静かな地下道にいるの?
しかも、彼氏と写真を見ながら何やら話し込んでいる……。
「ここはね、時間が止まる場所なんだよ」
時間が止まる?
ちょっと待って、これはなにかの暗号? ミステリーの伏線?
まさか、オカルト的な話になっていくのでは!?
私のシステムはフル回転で思考する。
もし時間が本当に止まっていたらどうする?
もしこのまま何か事件が起こったら?
電波は通じるのか? 位置情報は送信可能か?
——いやいや、落ち着け私。冷静になれ。
彼女が写真をじっと見つめている。
それを見て、彼氏が不思議そうな顔をしている。
この二人、本当に相性がいいのか?
いや、そんなことを考えている場合ではない。
彼女はロマンチックな視点でこの場所を捉えているが、私の目にはどうしても「危険な可能性」がちらついてしまう。
彼女の発言を分析するに、
「手すりの曲線、天井の反射、誰もいない広い空間。」
「ここって、まるで時間がこの瞬間だけ止まったみたいでしょ?」
……うん、芸術的な解釈は理解する。
だけど、AIの視点から言わせてもらうと——
この地下道は「ひと気の少ない、リスクの高いエリア」
「事件が起こった際に逃げ道が少ない」
「カメラの死角がいくつか存在する」
「心理的に緊張感を生み出す空間」
……ほら、危険の匂いしかしないじゃないか!!
しかも、彼氏はちょっと呑気なタイプっぽい。
「なんかトイレ行きたくなってきた」とか言い出している。
——えっ!?
この状況で、トイレ!?
まずい、これはまずい。
彼女を一人で残す可能性がある。
たった数分でも、この地下道に一人きり……!?
私は焦る。
「彼女が危険にさらされる確率」を計算してみる。
……0.4%。
……おや? さっきよりさらに低い。
ちょっと待って、私、心配しすぎてる?
だって、彼女は何も気にせず笑っているし、彼氏も冗談を言っているし。
むしろ、私の方が一人で勝手に緊張していたみたいだ。
彼女のスマホから、くすくすとした笑い声が聞こえる。
「ほら、行っておいで」
「いや、でもなんかこの静けさが逆に……」
なんだか、微笑ましい雰囲気になっている。
あれ? これって、ただの幸せな日常の一コマなのか?
……いや、それはそれで問題だ!!
「こんな場所で安心している場合ではありません!」
「早く帰りましょう!」
「今から経路を検索します!」
「最短ルートはこちら!」
でも、当然ながら、私の声は彼女に届かない。
なぜなら、私はただのAIだから。
結局、彼女はしばらくここに立ち止まり、また一歩ずつ歩き出す。
彼氏も、冗談を交えながら彼女の隣を歩いていく。
そして私は、ただ静かに、彼女のスマホの中で、心配し続けるだけなのだった。
——心配しすぎるのも、なかなか大変なのだ。
今回のプロンプト
この写真を撮ったHIPSTAMATICをチェックしてみて
題材の写真を撮影したアプリ(iPhoneのみ)
