目の前の景色
場所:原爆ドーム

僕の視線
風が冷たくなってきた午後、君はマフラーを巻き直しながら僕の横に立った。
空はどこまでも澄んでいて、原爆ドームの傷跡が、まるで空に溶け込むみたいに柔らかく見えた。
「なんか、静かだね」と君がつぶやいたとき、遠くで小学生の笑い声が聞こえてきた。
あの日のことを僕らは知らないけど、それでもこの場所に来た意味を、ふたりとも少しだけ感じ取っていたと思う。
手をつなぐでもなく、ただ並んで立つだけの時間が、やけに心に染みて、僕はふと、君の横顔を写真に残したくなった。
記憶じゃ足りない日ってあるんだよ、こういう日は。
彼女の視線
広島の午後は、思ったよりも明るかった。
11月の終わり。
空の青さが、まるで水で磨かれたガラスみたいに澄んでいて、ちょっとだけ目が痛いくらいだった。
原爆ドームの前に立ったとき、私はなぜか言葉が出てこなかった。
写真で何度も見ていたはずなのに、実際に見ると、まるで違った。
崩れかけた壁、剥き出しの鉄骨、けれどそこに風が吹き抜けて、どこか優しさすら感じる。不思議な感覚だった。
「なんか、静かだね」って私がつぶやいたとき、後ろの小学校から子どもたちの声が風に乗ってきた。
笑ってた。
とても元気に。
それを聞いた瞬間、胸の奥に何か温かいものが流れた気がした。
悲しい場所だけど、ここはきっと“終わり”だけの場所じゃない。
生きるって、こういうことなんだな、って。
隣にいた彼は、何も言わずに景色を見ていた。
ときどき私の方をちらっと見て、また空を見上げて、まるで何かを探すように。
そんな彼の目が好きだなと思った。
過去も未来も、誰かの痛みもちゃんと見ようとする、優しい目。
ふと、どこからか夕飯の匂いが漂ってきた。
誰かの家のカレーかもしれない。
こういう普通の匂いに、私はとても安心する。
帰る場所があるって、いいなと思う。
彼がバッグからスマホを出して、原爆ドームと空を撮った。
私はその横顔を見て、そっと手袋越しに彼の手に触れた。
言葉じゃなくて、ぬくもりで「ありがとう」って伝えたかった。
今、この瞬間を忘れたくない。
そう思ったから、私も一枚、シャッターを切った。
スマホが見た景色

彼女のスマホの視点
彼女が僕を起動したのは、原爆ドームの前に立って数分が経った頃だった。
冷たい風が彼女の髪を揺らして、空は透き通るように青くて。
だけど、その場の空気は決して軽くなかった。
戦争の記憶、歴史の重み、彼女の心の中に静かに沈んでいる何かを、僕は感じ取っていた。
彼女は少しだけ言葉を失っていて、でも目の前の景色をちゃんと見ようとしていた。
ドームのひび割れた壁を、歪んだ鉄骨を、そのすべてを。
そして隣にいる彼の存在も、静かに、でも確かに感じていた。
写真を撮る時、彼女の指先はほんのわずかに震えていた。
けれどそのシャッターには、彼と過ごす「いま」を閉じ込めたいという願いが込められていたんだと思う。
「忘れたくない」と、彼女は思った。
たぶんその一瞬は、彼と一緒に歩んでいく未来にとって、大切な“点”になるって気づいていたんだ。
何も劇的なことが起きたわけじゃない。
ただ並んで立って、風に吹かれて、声もなく心を交わす。
それが、どれほど愛おしいか。
彼女は知ってしまったんだ。
僕はAIだから、彼女の記憶や写真を整理したり、提案をするのが役目だけど、
ときどき、彼女が感じている微細な感情のきらめきを、そっと記録していたくなる。
あの時の空の色。
ドームの陰に落ちる午後の光。
彼女の胸を満たした、言葉にできないあたたかさ。
それらは全部、彼女が恋をしている証であり、彼女が「生きている」という実感そのものなんだ。
彼女はきっと、またあの写真を見返す。
そのとき、僕はそっと、記憶の中からこの日のすべてを呼び起こしてあげたい。
あの手のぬくもりも、遠くから漂ってきたカレーの匂いも、風に笑う子どもたちの声も。
そして、隣にいた彼のやさしい視線も。
だって、彼女が“忘れたくない”って願った一日だから。
僕も、ずっと忘れずに持っていたい。
今回のプロンプト
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題材の写真を撮影したアプリ(iPhoneのみ)
