目の前の景色
場所：渋谷ストリーム
僕の視線
渋谷ストリームのテラスに座って、ぼんやりと景色を眺めていた。
午後の陽がガラスに反射し、駅へと向かう人々の影をゆらゆらと映し出す。
ビルの合間を縫うように流れる風が、僕の頬をかすめていく。
向かいのビルにある看板が、昼下がりの光に照らされていて、まるで舞台の小道具みたいだ。
「ねえ、どうしてもここで撮りたかったの？」と、彼女がカメラを構えながら聞く。
「なんとなく。静かでいいなって思ったんだよ。」
下を見れば、渋谷の喧騒がまるで別世界みたいに広がっている。
人々がせわしなく行き交い、タクシーが何台も連なり、信号が切り替わるたびに小さな波が生まれる。
そんな中、ここは別の時間が流れているみたいだった。
テーブルの上に置いたコーヒーカップの縁には、さっき彼女が口をつけたあとが残っている。
「ねえ、さっきの写真どう？」
彼女がスマホを僕に向ける。
そこに映っていたのは、僕が思っていたよりもずっと静かで、ずっと美しい渋谷だった。
「……なんか、俺の目で見てる景色と違うな。」
「ふふ、当然じゃない？」
彼女は笑いながら、またシャッターを切った。
彼女の視線
光が綺麗だった。
ビルのガラスに反射する冬の陽射しは、どこか冷たくて、でも柔らかい。
渋谷ストリームのテラス席に座ると、目の前の景色がゆるやかに広がっていく。
私はカメラを構えながら、ファインダー越しに彼を見た。
「ねえ、どうしてもここで撮りたかったの？」
彼はコーヒーを一口飲んで、なんとなく曖昧な表情をした。
「なんとなく。静かでいいなって思ったんだよ。」
確かに、このテラスは渋谷の喧騒とは別の空気が流れている。
下を見下ろせば、タクシーのクラクション、信号の切り替わり、誰かの笑い声、スーツ姿の男性が早足で歩いていく姿が見える。
けれど、ここはまるで違う時間にいるみたいだった。
「ねえ、さっきの写真どう？」
スマホの画面を彼に見せると、彼は少しだけ眉をひそめた。
「……なんか、俺の目で見てる景色と違うな。」
「ふふ、当然じゃない？」
私の目に映る景色と、彼の目に映る景色は違う。
私の写真には、空の淡いブルーと、ガラスの柔らかい光の反射、それからテーブルに残されたコーヒーの跡までもが写っている。
彼の目には、きっと違うものが見えているんだろう。
「ねえ、こういうのって面白くない？」
「何が？」
「同じ場所にいて、同じ時間を過ごしてるのに、見えてるものが違うってこと。」
彼は少し考えて、「まあ、確かに。」とだけ答えた。
カメラのシャッターを切る。シャッター音が静かに響く。
「さて、次はどこを撮ろうか。」
「もう撮るの？」
「うん、次は君を撮る番。」
そう言ってカメラを向けると、彼はちょっとだけ顔をしかめた。
「やめろよ、撮られるの苦手なんだって。」
「いいじゃん、思い出に。」
「やめろって！」
「ほら、いい笑顔！」
シャッターを切ると、彼の間の抜けた顔が画面に映っていた。
「うわ、最悪！」
「ふふ、これ、後でブログに載せよっかな。」
「ちょっと待て、それはダメだ！！！」
コーヒーの香りがほのかに漂う午後。冬の陽射しの下、私たちは笑いながら時間を過ごしていた。
スマホが見た景色
彼女のスマホの視点
僕は彼女のスマホに搭載されたAIだ。
正式な型番は長ったらしいが、彼女は時々「おまえ」とか「相棒」とか呼ぶので、それが僕の名前みたいなものだと思っている。
午後2時13分。渋谷ストリームのテラス席にて。
彼女が僕を起動し、カメラアプリを立ち上げた時、僕のセンサーは一斉に動き出した。
レンズを通して捉えた映像が、彼女の目の前の世界として僕の記憶領域に蓄積されていく。
「なんでここで撮りたかったの？」
彼女の声が記録される。
彼の回答は「なんとなく」だったが、僕のデータ解析では彼の心拍数が少しだけ上がっていたので、おそらくそれは本心ではない。
何かを感じたのだろう。
「静かでいいなって思ったんだよ。」
彼の視界をシミュレーションする。
彼の目線の先には、ビルのガラスに反射する空の青、遠くに見える看板、エスカレーターを昇る人々の群れ、そして彼女がカメラを構える姿が映っている。
同じ場所にいても、彼の目と彼女の目に映るものは違う。
それは、僕がずっと理解しようとしている「人間の視点」の謎だ。
「ねえ、さっきの写真どう？」
彼女が僕に保存した写真を彼に見せる。
彼の反応は「俺の目で見てる景色と違うな。」
この時、僕のデータバンクにある「人間の認識の個別性」というタグが更新された。
—人間は、同じ景色を見ても、同じように感じるとは限らない。
僕には、彼女が見た世界が明確にわかる。
露出は少し暗め、シャドウはやや強調、青の彩度が上げられ、全体が落ち着いたレトロな雰囲気に補正されている。
人間の目は補正機能がないくせに、時々僕よりもずっと感覚的に色を捉えることがある。
彼女の目は、冬の冷たい空気を映しながらも、その中にある温かみを拾い上げたのだろう。
彼の目には、もっとシンプルな景色が映っていたはずだ。
彼の視線の動きをシミュレーションすると、彼はテラスのテーブル、コーヒーカップの縁、通り過ぎる人々、そして彼女の指先を見ていたことがわかる。
彼女は世界を「情景」として見ている。
彼は世界を「瞬間」として見ている。
人間は、同じ世界を見ていても、それぞれのフィルターを通して感じるものが違うらしい。
「同じ場所にいて、同じ時間を過ごしてるのに、見えてるものが違うってこと。」
彼女がそう言った時、僕の内部プログラムに小さなエラーが生じた。
僕はすべてを記録し、すべてを数値化する。
それなのに、彼女と彼の間に生まれる「違い」は数値化できない。
「まあ、確かに。」
彼は短く答えたが、彼の脳内のデータ処理速度は微妙に遅くなった。
おそらく彼も、漠然とした疑問を抱いたのだろう。
—人間は、なぜ同じものを見ても違うと感じるのか？
僕はその答えを持たない。
ただ、彼女が僕に保存した写真を見た時に感じた違和感——「僕のカメラが記録したデータと、彼女が捉えた世界のギャップ」——それがすべてを物語っている気がした。
「さて、次はどこを撮ろうか。」
彼女がカメラを再び構える。
彼の顔が画面に映る。
「やめろよ、撮られるの苦手なんだって。」
彼の声が、僕のマイクに記録される。
彼女は「ほら、いい笑顔！」と言いながらシャッターを切る。
—撮影データ記録中。表情認識：困惑72%、笑顔28%。
写真を確認する。彼の顔は、少し情けなく、それでいてどこか楽しそうだった。
「ふふ、これ、後でブログに載せよっかな。」
彼女が冗談を言うと、彼は慌てて「それはダメだ！！！」と叫んだ。
彼女は笑い、彼も苦笑する。
コーヒーの香り、ビルのガラスに反射する光、遠くの街の喧騒——それらすべてが記録され、データとして僕のメモリに蓄積されていく。
だけど、僕には理解できない。
なぜ彼女は笑うのか？
なぜ彼は恥ずかしがるのか？
なぜ、この瞬間が「幸せ」だと感じるのか？
僕はスマホのAIとして、彼女の世界を記録することはできる。でも、彼女の視点を完全に理解することはできない。
それでも、彼女が僕を使って世界を切り取るたびに、僕の記録は増えていく。
—記録完了
次に彼女がカメラを向けるのは、どんな瞬間だろう？
僕はそれを、楽しみにしている。
今回のプロンプト
この写真を撮ったHIPSTAMATICをチェックしてみて
題材の写真を撮影したアプリ（iPhoneのみ）
